埼玉県の鉱山の中で、最も数が多いのはマンガン鉱山です。秩父地域から飯能市にかけて、昭和30~40年代に盛んに採掘されていました。鉱夫が数人の小規模な鉱山が多かった中で、秩父地域で最も規模が大きかったのは皆野町の日野沢鉱山で、数十人の従業員がいたようです。
マンガン鉱床は、秩父帯のチャートや粘板岩などの堆積岩中に存在します。海洋底に堆積したマンガン成分が、マンガン鉱山の基になっていると考えられます。
秩父帯の岩石は、海洋底の火山体や堆積物などが海洋プレートに乗って移動し、ジュラ紀に大陸側に押し付けられた「付加体」からできています。マンガン成分も、その他の堆積物とともにはるか彼方の海洋底から、海洋プレートに乗って運ばれてきたもので、マンガン鉱床は数億年前の深海底からの贈りものともいえます。
マンガン坑は、現在では場所がよくわからなくなっていたり、アクセスしにくい場所が多いのですが、安谷川マンガン坑は比較的わかりやすい場所にあり、気軽に観察できます(落石注意)。
坑内では、層状チャートにはさまれた、厚さ数cm ~十数cmの黒色層が見られ、この層を目的に掘っていたと考えられます。坑道内には無数の細かな白色鉱物が結晶化していますが、鉱山でよく見られる石膏という鉱物です。
※坑口のそばで観察する際は、落石に注意が必要です。