札所31番鷲窟山(しゅうくつさん)観音院の山門では、明治元年(1868)完成の日本一大きな一枚岩の石造仁王像が待ち受けています。
仁王像には、境内の石塔、石仏、石垣などとともに、裏山の観音山、東側の大石山から切り出された凝灰質砂岩が使われています。この砂岩は、「岩殿沢石」といい江戸時代から石材として秩父地方で多く利用されてきました。札所4番金昌寺の石仏群もこの岩殿沢石でつくられており、道端に置かれた石材を「功徳石」と呼び、巡礼者が少しずつ運んだといわれています。
296段もの石段を上っていくと、巨大な岩壁を背に観音堂があり、神秘的な雰囲気に包まれています。お堂の周りの岩壁は、盆地内の最下部の地層(約1700万年前の新第三紀中新世)で、石英や長石の小石がまじった砂岩でできています。秩父盆地が陥没し、海が入り始めたころに堆積したものです。堆積時の海底の水の流れの跡を示す薄い層「斜交葉理(しゃこうようり)」も見られます。各所にある岩窟には石仏が納められ、秩父札所が修験道から起こったことを感じさせます。
高さ30mもある「聖浄の滝」の左手の岩壁には、小さな磨崖仏がびっしりと刻まれています。埼玉県指定史跡「鷲窟磨崖仏」です。かつては岩壁一面にあったともいわれる室町時代の作ですが、弘法大師(空海)が一夜にして彫ったとの伝説もあります。
東奥の院に行くと「馬の足跡岩窟」があります。砂岩中の球状の塊(ノジュール:石灰質団塊)の断面が、馬の蹄鉄の跡のように見えることから名付けられたと考えられます。