「ジオパーク」という言葉は、「地球・大地(ジオ:Geo)」と「公園(パーク:Park)」とを組み合わせた造語です。
ジオパークは、地質学的に価値のあるサイトや景観が、保全、教育、持続可能な開発といった総合的なアプローチで管理運営されている一つのまとまった地域を指します。ジオパークで行われる保護活動、教育活動、持続可能な観光(サステイナブルツーリズム)などのあらゆる取り組みは、それぞれが有機的に連動することで、将来に渡って地球遺産を守り活かしながら、地域を活性化させていく推進力を生み出します。
大地(ジオ)の上に広がる、動植物や生態系(エコ)の中で、私たち人(ヒト)は生活し、文化や産業などを築き、歴史を育んでいます。ジオパークでは、これらの「ジオ」「エコ」「ヒト」の3つの要素のつながりを楽しく知ることができます。
例えば、山や川をよく見て、その成り立ちと仕組みに気づくと、今まで何とも思わなかった景色が変わって見えてきます。またその景色が、何千万年、何億年という途方もない年月をかけてつくられてきたことを知れば、私たち人の暮らしは地球の活動なしには存在しえないことも分かります。
地球の悠久の歴史の中で育まれてきた、その地域固有の価値と魅力を広く伝えていく世界的な取り組み、それがジオパークです。
ジオパーク秩父は、秩父地域1市4町(秩父市、横瀬町、皆野町、長瀞町、小鹿野町)をエリア(約89,250ha)としており、平成23年に当時国内で15番目の日本ジオパークに認定を受けました(2022年1月28日現在国内に46か所)。その後、平成27年の再認定、令和元年の条件付き再認定、令和4年の再認定を受け、現在に至っています。
秩父地域では、NPO団体が主催するガイドツアー、学校における体験学習、自治会や公民館での講座など、ジオパークに関する住民の活動が盛んです。秩父地域の新たな魅力発信と地域活性化を目指し、各団体や各行政機関、観光関係団体で組織された「秩父まるごとジオパーク推進協議会」が中心となり、地域全体でジオパーク活動を推進しています。
埼玉県西部にある秩父地域は、都心から60~80km圏に位置し、関東平野の西に連なる関東山地の一画を占める都市近郊山村地域です。中心の秩父盆地は、南と西を2,000m級の奥秩父山地、北を上武山地、東を外秩父山地に囲まれ、河成段丘の階段状の平坦地があります。荒川とその支流は秩父盆地北東部に集まり、長瀞から関東平野に流れ出ています。
秩父市街地に近い秩父ミューズパークの展望台からは、秩父盆地の東部とその周辺山地が見渡せます。秩父帯の固い岩石からなる武甲山を中心とする険しい山々と、三波川帯のもろく剥がれやすい変成岩で構成されるなだらかな外秩父の山々との山容の違いや、10段以上にも分けられる秩父の段丘地形などが一望できます。秩父地域の約84%が森林であり、秩父多摩甲斐国立公園、5つの県立自然公園がある自然豊かな地域です。また、内陸気候のため寒暖の差が大きく、四季の変化が明瞭です。とくに冬の冷え込みは強く、谷間では氷柱(つらら)が見られます。雨量は全国平均に比べて少ないものの、夏の雷雨や秋の台風では豪雨になることもあります。また、晩秋には放射霧による濃霧の発生が多く、雲海が見られます。
ジオパーク秩父の地域は、関東平野西方の関東山地の北東部にあたり、奥秩父山地、上武山地、外秩父山地、秩父盆地および山中地溝帯に区分されます。奥秩父山地は、2,000m級の峰が連なり、地形的に一般的に急峻で、切り立った尾根と深いV字谷を特徴としています。上武山地と外秩父山地は1,000m級以下の低山で、なだらかな山の中腹まで耕され集落ができています。秩父盆地には河成段丘が発達し、市街地が形成されています。山中地溝帯には白亜系(山中層群)の地層が広がっています。
秩父地域は東京に近く、明治時代から日本の近代地質学における数々の先駆的な研究が行われてきました。「秩父古生層」や「三波川結晶片岩」などの命名・研究をはじめ、日本列島の模式となる研究が展開され、以後多くの地質学徒の育成に貢献してきたことから、『日本地質学発祥の地』と呼ばれています。また、現在でも新しい研究が行われ、秩父帯や三波川帯など西南日本外帯の「付加体」(プレートの動きにより、大陸側に押し付けられた堆積物など)に関する新知見が得られるなど、『世界に発信する地質学的拠点』の一つです。
秩父盆地には新第三系の秩父盆地層群(従前:彦久保層群、小鹿野町層群、秩父町層群、横瀬町層群)が分布しています。これは約1,700万年前~1,500万年前の海底に堆積したもので、地殻変動にともなう多様な堆積構造や、パレオパラドキシア、チチブクジラ、チチブサワラといった大型の哺乳類、魚類の化石、さらに貝類、甲殻類、サンゴ類、ウニ類,珪化木といった多彩な化石群集を良好に保存しています。そのため日本海拡大期の地殻変動や生物相を復元するうえで重要な場所となっています。
秩父盆地の荒川沿いなどには、高位(多摩期)・中位(下末吉期)・低位(武蔵野期~立川期以降)と大きく3に区分される河成段丘堆積物が見られます。これらの第四紀堆積物は、かつての荒川などの河原に堆積した砂礫層、場所によっては粘土層、およびその上位に重なるローム層などで構成されています。中でも、高位段丘上に存在する多摩ロームは、中期更新世テフラの重要な模式露頭の一つとなっています。
甲武信ヶ岳付近の大滝層群中には約900万年前に甲府花崗閃緑岩類が貫入し、周辺の堆積岩類を熱による接触変成でホルンフェルス化させています。中津川流域では、約600万年前に秩父トーナル岩が貫入し、スカルン型鉱床(早期鉱床)は石灰岩と反応した接触交代鉱床、後期鉱床は脈状、チムニー状の熱水鉱床を形成しています。この鉱床は、140種にも及ぶ鉱物を産出することで知られていて、日本におけるスカルン鉱床の分類上も特異な産状として「秩父型」と区分されています。
令和元年6月19日、4都県12市町村に広がる「甲武信」エリアが国内10番目のユネスコエコパークとして登録されました。ジオパークと同様、ユネスコの正式プログラムの一つである「生物圏保存地域」(日本名:ユネスコエコパーク)は、ユネスコ「人間と生物圏(MAB:Man and the Biosphere)計画」の枠組みに基づいて、ユネスコによって国際的に認定された地域です。
世界遺産が、手つかずの自然を守ることを原則とする一方、ユネスコエコパークは、生態系の保全と持続可能な利活用の調和(自然と人間社会の共生)を目的とする取り組みです。
「甲武信」エリアは荒川、笛吹川、千曲川、多摩川など主要な河川の分水嶺を有し、甲武信ヶ岳をはじめ、金峰山、雲取山などの日本百名山が連なる自然豊かな秩父多摩甲斐国立公園を中心としており、そのうち埼玉県秩父市、小鹿野町がジオパーク秩父の領域と重なっています。
ユネスコエコパークは、豊かな生物多様性を保全し、自然に学ぶとともに、文化的にも経済・社会的も持続可能な発展を目指しています。一方のジオパークは、価値ある大地の遺産を保全しながら、教育、観光といった分野に活用することで、持続可能な地域社会づくりを目指すものです。このように、両プログラムが共有している地域づくりの形を、より有機的に成長させていく可能性がこの地域にはあります。
ジオパーク秩父では、今後も両プログラムに関連性のある各種取り組みを展開することで、様々な視点・分野において甲武信ユネスコエコパークとの相互連携を図っていきます。