国道140号線は、秩父鉄道「三峰口」駅近くの白川橋から秩父帯の険しい山地に入り、道は狭い谷沿いを進みます。古くからの街道である「秩父往還」は、かつては秩父市大滝の強石(こわいし)の手前の白滝橋から川沿いを離れて杉ノ峠を越え、落合に向かっていました。
強石という地名は、硬い岩石から付けられたものと想像できます。秩父帯では硬く緻密なチャートや石灰岩が分布し、険しい地形をつくっています。
強石から三峯神社へ向かうかつての「三峰街道」には、大達原の手前に、石灰岩をくりぬいたトンネルがあります。馬車を通すために明治中期以後に人力で掘ったものです。「何寸掘れば何銭」というように日当を払ったようで、どこから入ったかわからない荒くれ人夫を使うのに苦労したと伝えられています。幅3.45m、高さ4.8m、長さ40.5mもあり、その大きさに驚かされます。トンネルの東側を出ると、目の前に巨大な石灰岩の岩壁が現れ、迫力満点です。
今は人も通らずひっそりとしていますが、大正の初めのころは三峯神社への参拝客で賑わったそうです。大正5年(1916)に秩父を巡検した宮沢賢治も、このトンネルを通って三峯神社へ向かったものと思われます。大正10年、荒川沿いに国道(現在の140号)が開通するまでは参道として重要な役割を果たしました。ちなみに国道も巨大な石灰岩体をくりぬいてトンネルを通しています。
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