国道140号で秩父市大滝の神庭地区に入ると、荒川の対岸の急斜面にある岩壁に、洞窟が口を開けているのが目に入ります。この神庭洞窟は、眼下を流れる荒川によって、石灰岩の下部にある比較的軟らかな泥岩が侵食されて約5万年前に形成されたものです。こうした洞窟は天然の住居として古くから人々に利用されてきました。
神庭洞窟では、過去3回の調査によって縄文時代から近世に至るまでの遺物が確認されており、極めて長期間にわたって人々が継続的に移り住んできたことが明らかとなっていますが、縄文時代には狩猟キャンプ地として使われていたものとも考えられています。
また、縄文土器、古墳時代の壺、奈良平安時代の須恵器(すえき)などが出土しており、特に縄文草創期(1万2千年前)の石器(石槍・掻器:そうき)とともに発見された隆起線文(りゅうきせんもん)土器は、日本最古の土器群の1つでもあります。
洞窟の中には動物等の骨が良好に保存されていました。当地は石灰岩の洞窟であり、炭酸カルシウムを含むアルカリ性の石灰岩が骨の保存に適し、人骨をはじめ、サル、クマ、イノシシ、ウサギ、タヌキ、カモシカ、リス、ムササビ、そして魚類(サケ科)の骨が発見されています。これらの中には石器による解体時の傷跡をとどめるものもあり、縄文人がこれらの動物を食料としていたことを示しています。
山間部における縄文時代の人々の生活を知る上で、学術上極めて貴重な遺跡です。平成6年(1994)に埼玉県指定史跡となりました。
※駐車場から現地まで徒歩約15分です。