はるか昔、秩父盆地には海が広がっていました。のちに秩父連山となる山々の前に広がる豊かな海では生命の営みが繰り広げられ、そこでは、今日「パレオパラドキシア」や「チチブクジラ」と呼ばれる大型の海獣たちが泳ぎまわっていたのでしょう。
海であったころの記憶が刻まれた地層が見られる6つの露頭と、6点のパレオパラドキシア化石と3点のヒゲクジラ化石からなる化石群は、平成28年に「古秩父湾堆積層及び海棲哺乳類化石群」として、国の天然記念物として指定を受け、その価値が広く評価されました。
ここでは、約1700万年前に生まれ、約1500万年前に消滅した「古秩父湾」に焦点を当て、海だったころの秩父へタイムスリップをしてみましょう。
パレオパラドキシアは、今から約2000万年前から1100万年前まで生きていた絶滅哺乳動物です。柱を束ねたような奇妙な奥歯を持ち、大きな胸の骨、頑丈な手足を持っていました。
現在似たような骨格を持つ生物が生きていないため、生態やその姿など、いまだに謎が多い生物です。パレオパラドキシアという名称も、「太古の(palaios)矛盾した(paradoxus)生物」という意味があります。
よく「カバみたい」と言われるパレオパラドキシア。しかし、分類学的にはカバと全く異なります。カバは鯨偶蹄目(くじらぐうていもく)という、ウシやクジラに近い生き物なのです。それに対して、パレオパラドキシアは束柱目(そくちゅうもく)という独自のグループを作ります。そして、比較的近い仲間は、ゾウの仲間(長鼻目)やジュゴンやマナティーなどの仲間(海牛目)なのです。
パレオパラドキシアの化石は、日本~北アメリカ大陸の太平洋側から見つかっており、日本では、35カ所から約50標本の化石が発見されています。そのうち5分の1にあたる10標本は秩父地域で産出しています。秩父地域は、実は、世界で最もパレオパラドキシアの化石が多く見つかっている場所です。1972年、秩父市大野原で世界で2番目の全身骨格が見つかり、県立自然史博物館(当時)で公開されたときには、「埼玉の奇獣」として大きな注目を集めました。
秩父で発掘されたパレオパラドキシア、チチブクジラなど9つの化石標本と古秩父湾時代の地層が見られる6つの露頭は、「古秩父湾堆積層及び海棲哺乳類化石群」として、平成28年3月1日に国の天然記念物に指定されました。哺乳類の化石や新生代の化石、そして化石群としての指定は初めてのことで、さらに化石と地層を併せた初の複合天然記念物としても全国から注目されています。
おがの化石館の外に住んでいるパレオパラドキシアの子ども。みどりの村で生まれたという噂があるが真相は定かでない。名前も不明、生態も不明、本当にこんな体勢で座れたのか、と謎が多い。知能レベルは人間でいう小学3年生ぐらいの設定。
つぶらな瞳がチャーミング。出っ歯は親父ゆずりであるが、本人はいたって気にしていない。
同じくおがの化石館の外に住んでいる晴夫(仮)の父親。サイズ感と優しくもたくましい眼差しから勝手に晴夫(仮)の父に設定。本物のパレオパラドキシアの姿に忠実かどうかは定かではないが、「カバ」呼ばわりされることにはもう慣れている様子。
妻に先立たれてしまい、男手一つで息子を育てる苦労人である。
パレオパラドキシアご本人(骨格模型)
埼玉の奇獣としてかつて一世を風靡し、秩父地域では老若男女が知っているパレオパラドキシア。ジオパーク秩父のエリア内でも、いくつかパレオパラドキシアをモチーフにしたキャラクターや模型などが存在しています。
ここではそのうち、現在把握している数種類を特別にご紹介します!
この他にも知っているパレオパラドキシアがいたら、ぜひ教えてください!!
秩父鉄道を走る「SLパレオエクスプレス」のオリジナルキャラクターとして活躍中のパレオくんとパレナちゃん。パレオエクスプレスの由来となったパレオパラドキシアの子どもだそうです。
マシュマロのような可愛らしい姿で子どもたちに人気ですが、ずんぐりむっくりの体形はご本人の姿そのもの。秩父鉄道のイベントなどで良く登場するので、一番多くの方が目にするパレオパラドキシアのキャラかもしれませんね。
秩父市大野原でパレオパラドキシアの全身骨格化石が発掘されてから40年を記念して生まれた埼玉県立自然の博物館のキャラクター。名前は化石の産地「大野原」と発掘者の名前「治(おさむ)」から来ています。
そもそもパレオパラドキシアは、好きな食べ物、生活のしかたなども不明なことが多い謎の動物なんだとか。パレオパラドキシアという名称も、「太古の(palaios)矛盾した(paradoxus)生物」という意味だそうです。
不思議キャラの割には日常感あふれるネーミングがポイント高め。つぶらな瞳に大きなほっぺたが愛らしい、ザ・癒し系のキャラクターです。
小鹿野町が誇る国の天然記念物の一つであり、日本の地質百選にも選ばれている露頭「ようばけ」。その近くにある「おがの化石館」の外にいる2体のキャラクター。
同町にある「みどりの村」にかつてあったプールに設置されていたらしいですが、本来の名前も不明で、2体の関係も不明と、まさにパレオパラドキシアらしい経歴を持っています。
パレオパラドキシア業界きってのおとぼけ系で、適当なゆるさも兼ね備えたちょっと懐かしいタイプの造形。当ホームページでは勝手に「晴夫(はれお)」と「晴夫の父」としてこちらのページで紹介しています。
小鹿野町のパレオパラドキシア化石産出地に整備された「般若の丘公園」に設置されているパレオパラドキシアの実物大の像。3体あり、成獣のオス、メス、そしてその子どもと想像されます。やはり名前は不明らしいです。
現地に行くと、その大きさに圧倒されます。リアルな造形で、カバとは一線を画するその奇妙な姿に納得するはず。「きもかわ系」として一部熱烈な支持を集めそうな予感がします。
なお、同じ場所に、古秩父湾に生息していた固有種の大型魚「チチブサワラ」の模型もあり、こちらも見応えがあります。
自然の博物館にある復元模型。博物館が監修し、大野原標本を元に作成されました。パレオパラドキシア業界きってのリアルさを持っており、本人に最も近い模型と思われます。
パレオパラドキシアは「束柱目」という今はいないグループの生物で、ジュゴンやマナティーなどの仲間に比較的近いとされています。この模型の手足には「水かき」があるのが分かり、ジュゴンのように泳ぎが得意だったことがうかがえます。
パレオパラドキシア業界的には「リアル系」代表のイケメンであり、自然の博物館に来た小学生のハートをわしづかみしています。博物館は実際の化石や骨格模型もあり、パレオファンは絶対に訪れるべきスポットの一つです。
ジオパーク秩父を代表する海獣たちと、秩父市イメージキャラクターの「ポテくまくん」が奇跡のコラボ!我らがパレオパラドキシア、チチブクジラ、メガロドン(カルカロドン)の3種類あります。
そのうちパレオバージョンは、おがの化石館の屋外にいる「晴夫」の着ぐるみを被っており、かなりゆるゆるな仕上がりに。その後ろにチチブサワラ、チチブホタテ、ようばけで化石がでるカニを配したという細かい設定もポイント高めです。
顔出しパネルも作成されており、子どもたちやポテくまくんファン、かわいいものには目がない今どき女子たちも、きっとジオパークが好きになること間違いなし!?の注目株です。
お茶の間感あふれる表情豊かなこのキャラクターたちは、1994年に地元・小鹿野町の職員の方が描いたもの。パパレオ(父)、ママレオ(母)、パレオ(息子)、パレミ(娘)の4人家族です。ママレオの服に描いてある、かつて小鹿野町にあった温泉施設「クアパレスおがの」(2008年閉館)の字に時代を感じます。
歴史あるこのキャラクターたちのグッズは、なんとおがの化石館で公式グッズとして現役で販売しています!トートバッグ、ハンドタオル、コースターなど各種ありますので、ぜひゲットしたいところです。
この家族が活躍するジオパーク4コマ漫画が読みたいと思うのは私だけではないはず。。。
最近、秩父は雲海スポットとして注目されています。秩父盆地では、夜に地面が熱の放射によって冷えることで、地面に接している空気も冷やされて気温が下がる現象(放射冷却)が起こります。このとき、地表付近では一定温度になると霧(放射霧)が発生し、これを標高の高い場所から見下ろすと、まるで雲の海が広がっているように見えるのです。
ちなみに、ふつう気温は上空に100m上がると0.6℃下がります。高い山に雪が残るのはそのためです。「放射冷却」によって盆地内で起こる、上にいくほど気温が暖かくなる現象を「逆転層」といいます。
秩父盆地には、約1700万年~1500万年前にかけて「古秩父湾」という海が広がっていました。秩父雲海の絶景はまるでこの「古秩父湾」が現代に再び現れたように思われます。パレオパラドキシアやチチブクジラといった大型の海獣たちが泳ぎ回っていたいにしえの海に思いを馳せて、ジオパーク秩父ならではの絶景を楽しんではいかがでしょうか。
季節 | シーズンは春と秋。ピークは11月。(条件がそろえば夏や冬でも見られます。) |
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時間 | 明け方~早朝が多い |
天気 | 明け方晴れていること(前日雨が降るとさらに発生しやすい) |
風速 | 風が弱いこと(風速1m/秒以下が続くと発生しやすい) |
湿度 | 湿度が高いこと(湿度が100%に近いと発生しやすい) |
※雲海は自然現象です。上記の条件が当てはまっていても必ず見られるとは限りませんのでご了承ください。
雲海が見られる場所は実はジオサイトにもなっています。ジオパーク秩父巡りをしながら雲海写真もゲットしちゃいましょう!
1984年、秩父市大野原のパレオパラドキシア産出地の岩盤に、骨の組織の一部が露出しているのが発見されました。その後の発掘で、頭骨、下あごの骨、頸椎(首の骨)が見つかりました。体の骨は失われていましたが、頭骨の大きさから推定して、全身4mほどのクジラであることが判明しました。
クジラは、陸上から海に戻った哺乳類です。歯は退化してヒゲとなり、水中での生活に適応して鼻の穴の位置が頭骨の前部から後退する進化の過程をたどっています。現在のクジラの鼻は頭部の上にあるため、潮吹きをすると頭の上から吹きあがって見えるのです。
秩父で見つかったクジラの化石は、現在のクジラより前に鼻孔があり、古いクジラの特徴を備えていました。すでに絶滅をした「ケトテリウム科」という仲間に属しますが、この仲間は日本での発見はなく、さらに北太平洋沿岸の北米のクジラ化石にも見られず、新しく発見された新種のクジラとして、「チチブクジラ」と名付けられました。新しい種類を決める基準となる標本を「ホロタイプ」といいますが、これは世界で1つしか指定されないもので、大変貴重なものです。
約1700万年~1500万年前に存在した古秩父湾では、パレオパラドキシアやチチブクジラなどの海獣が悠々と泳ぎまわっていたのです。現在、秩父から東京湾までは約80kmの距離がありますが、大昔には今の秩父盆地が確かに海であったことを、彼らの化石が証明してくれています。
現在、この標本は埼玉県立自然の博物館で見ることができます。約1500万年前の古秩父湾を泳いでいたチチブクジラに、ぜひ会いにきてくださいね。