おい晴夫、ちょっとこっちに来なさい。
なんだい父さん、やぶから棒に。
お前も大きくなったし、そろそろ本当のことを話さないといけないと思ってな、、、
も、もしかして、僕って父さんの本当の子どもじゃないってやつ?
そんなの聞きたくないよっ!!
馬鹿もん、早とちりするんじゃない! お前はれっきとしたお父さんの子だ、、、
そうじゃなくて晴夫、おまえは何という種類の生きものだか知っているか?
(はぁ、ホッとしたなぁ。)
なんだいそんなこと。カバに決まってるでしょ。
そうだな、これまでお前には、学校でいじめられないようにそう言ってきたが、
実は、俺たちはカバじゃないんだよ。
え?!カバじゃない?? するってぇと僕たちは一体何者なの?!?
俺たちはな、約1700万年前から約1500万年前にこの地にあった海「古秩父湾(こちちぶわん)」に住んでいた、「パレオパラドキシア」という海獣なんだ。
ぱれおぱら、、、お父さん、僕には何がなんだか分からないよ、、、
まぁ、無理もないな。それじゃあ、俺たちのご先祖様がどんな時代に、どんなところで生きていたのか、お父さんが少しずつ教えてあげよう。
・・・・僕も知りたい。僕たちのおじいちゃんのおじいちゃんのそのまたず~っと前のおじいちゃんがどうやって生きていたのか、知りたいよ!!
ねぇねぇお父さん、僕たちが今住んでいるところは陸だよね?
なんで昔は海だったのさ!僕、川じゃなくて海で泳ぎたい!
そうだなぁ、それじゃあ、俺たちがいる日本列島がどうやってできたかの話からしてみるとするか。
(母さんがいなくなってから海行ってないなぁ。すまん晴夫、、、)
日本って島だよね!僕知ってるよ!
そう、日本は島国だけど、大昔は大陸にくっついていたんだ。
今からおよそ2500万年前、大陸の東の端で地球の表面、つまり地殻が引き伸ばされはじめて、1900万年ごろ、ついに大陸からはがれるように移動をし始めたんだ。
お父さん、さらっと話しているけど、今の話でもう600万年もたってるよ!お父さんってすごい!
そ、そうだな。地球の話をすると時間のスケールの違いにお父さんもびっくりするよ。(こいつ、国語はだめだけど算数は得意だったな。)
それでとにかく、大陸からはがれた島のかけらたちは、太平洋に向かって移動をはじめたんだよ。大陸と、大陸からはがれた大地の間に海ができた。それが今の日本海の原型さ。
日本海ができたんだ!僕、新潟で海水浴したいなぁ~
あ、ああ、、(次の夏には海水浴に連れてってやるか。)
それでな、およそ1500万年前、ようやく島々が今の位置に来たころに、日本海の拡大も終わったんだ。今とは形がだいぶ違うけど、日本が列島になったのはこのころのことなんだ。
へえー!!島が動くなんてふっしぎ~!
そして俺たちのご先祖様は、この日本列島の誕生の時代とともに生きていたのさ。
お父さんうまいこと言うね~!
そ、そうか?(照)
それじゃあ次は、日本列島誕生の時代に俺たちが今住んでいる秩父はどんな姿だったのかを教えてあげよう!!
はい!先生教えてください!(お父さんノリノリだな、、、)
晴夫、実はな、いま「秩父」といわれているところは、日本列島が誕生したころには海だったんだ。
もんげ~!!!
うすうす感づいてたけどやっぱりそうだったのか~!
盆地の東側の山々、つまりいずれ「外秩父山地」になる山々はまだなくて、今の盆地の西縁を海岸線とした湾だったわけだな。このころにできた海が、今は「古秩父湾」と呼ばれているんだ。だいたい1700万年前にできたらしいぞ。
秩父に海岸があったなんて信じられない~!あ~あ、古秩父湾がまだあれば埼玉県民は海水浴に行くのも近かったのになぁ~
はっはっは。そうだなぁ。この時代、今の秩父盆地のあたりは浅瀬が広がっていて、俺たちの祖先たちもここで暮らしていたのが分かっているんだ。
ねぇねぇお父さん、素朴な質問なんだけど、何でそのころは海が浅かったってわかったのさ??
皆野町にある「前原の不整合」は、古秩父湾が誕生したころの地層があるんだが、ここからカキの化石が出てるのさ。カキは浅い海じゃないといないから、その時代の環境を示す「示相化石」っていわれているんだ。
な~る!お父さんって頭がいいなぁ~!
僕、クラスのみんなに自慢しようっと!
晴夫も一生懸命勉強すればいろんなことを話せるようになるさ。
ま、父さんが知ってることも全部、ジオパーク秩父のガイドさんの受け売りなんだがな。わっはっは。
どっひゃ~!
さぁ、お次は古秩父湾が誕生してから100万年後の話だ。今から約1600万年前に、秩父盆地だけじゃなく、日本列島の広い範囲が沈降(ちんこう)してしまったんだ。
古秩父湾にとって、深海の時代が訪れたってわけだ。
ち、ちんこう・・(ゴクリ)。ぼく、深い海は怖くて泳げないよ。。。
お父さんも深い海は苦手だなぁ。この時代の地層からは、俺たちの祖先の化石も出てないんだ。ご先祖様も浅い海の方が好きだったのかもしれんなぁ。
このころの地層が見られる場所の一つがこの秩父市下吉田の「取方の大露頭」だ。晴夫も遠足で行ったことがあるだろ?
あ!僕行ったことがあるよ!なんだかミルフィーユみたいな模様の崖がおいしそうだった! ぼく、わらじかつ丼の次にミルフィーユが好き!
お前なんでそんなおいしそうな画像持っているんだ。。。
まあいい、この取方の大露頭にあるミルフィーユみたいなくっきりした地層は「タービダイト」といって、地震や大嵐のとき、浅瀬から深海の海底に何度も何度も泥や砂が流れ込んでできたんだ。
粗い粒は急速に沈んで、細かい粒はゆっくり沈むから、きれいな縞模様ができるというわけさ。
な~る。あ!お父さん、ぼくこんなダジャレできたよ!
深海でできたミルフィーユって、おいしんかい?
どう??面白いでしょ?!
う~ん、それじゃあ座布団はやれんなぁ。
キ、キビシィ~!!!
ねぇねぇお父さん、僕らが住んでるところの近くにある「ようばけ」って、大昔にあった海と何か関係があるの?
お前、大分察しがよくなったなぁ。
「ようばけ」は、約1550万年前、古秩父湾がふたたび浅い海になったころにできた地層が見えるんだ。あそこでよく化石が出るのは知っているだろ?
うん!ぼく、カニの化石を見つけたことあるよ!
浅い海になったのは、古秩父湾の東側が隆起しはじめて、西側と東側の陸から堆積物が流れ込んできたからさ。
浅い海には多くの生物が生息して、生物の楽園になった。俺たちのご先祖様やクジラの化石もこの時代に多く見つかっているよ。
ご先祖様たちも、カニ取りとか、潮干狩りとかしたのかなぁ~
僕もしたいなぁ~
この時代にはカニ食べ放題だったろうなぁ。
ま、基本的にパレオパラドキシアは草食だから、海藻でも食べてたんだろう。そのへんはお父さんもよくわからんがな。
うう、僕、海藻きらいだよ~。
わらじかつ丼が食べたいよう。。。
晴夫、実はな、生物の楽園だった古秩父湾も、残念なことに終わりを迎えることになってしまうんだ。
うう、古秩父湾がなくならなければ、秩父で海水浴ができたのにぃ~!
晴夫、海がなくたって秩父はいいところさ。
古秩父湾が消滅したのは、今から約1,500万年前のこと。湾の東側が隆起し続け、ついに湾が閉ざされてしまったんだ。
この時代、秩父盆地の東縁が海面から顔を出して、崖がガラガラ崩れてしまった。そのとき崩れた岩が、横瀬町にある「新田橋の礫岩露頭」さ。
横瀬のウォーターパークがあるところでしょ! 僕知ってるよ。
良く知っているなぁ。あそこの礫岩は、崖が削られてすぐに積もったから、角が立っていたり、巨大だったりするわけだ。
ねぇねぇお父さん、古秩父湾がなくなって、僕たちのご先祖様はどこに行っちゃったの?
秩父で最後のパレオパラドキシア記録は、秩父市栃谷というところから出ている化石なんだが、約1500万年前、湾がなくなるまでご先祖様たちが古秩父湾で生きていたことが分かってるんだ。
パレオパラドキシアの最も新しい化石は、群馬県の約1200万年前の標本だから、古秩父湾がなくなった後も、近くの海で暮らしていたんだろうなぁ。
それを聞いて安心したよ!
ま、その後絶滅してしまったんだけどね。。。
ひ~ん悲しいよう~~!!
絶滅してしまったのは悲しいけど、ご先祖様たちは、昔、秩父が確かに海だったことを証明してくれたのさ。
パレオパラドキシアやチチブクジラなどの化石9件と、当時の記憶を残す地層の露頭6か所は、「古秩父湾堆積層及び海棲哺乳類化石群」として、国の天然記念物になったんだ。これはとってもすごいことなんだよ。
ご先祖様、超リスペクトだね。
僕もジオパーク秩父にもっとみんながたくさん来てくれるように頑張るYO!
晴夫!お父さんは嬉しいぞ!
そうだ、今日の夕飯はわらじかつ丼にするか!
わ~いやったね!わらじかつ丼大好き♪